Rain night, moon light.
第十五話 『或る猫の記憶』

彼女を犯したいと思った。

いや、それはある意味で

比喩ではないのだ。

彼女はそれくらい綺麗だった。

しなやかに伸びる肢体は美しく、

彼女の体温は生物特有の

温もりに溢れている。

僕は人ではなく、

猫なのだ。


彼女と出会ったのは

とある公園だった。

僕は覚えたての煙草を吸って、

ベンチで休憩をしていた。

煙草の味はひどく苦く、

今の僕にはまだ早いと

思ったが、

大人になりたいと

焦っては

大人の真似事ばかり

していた。


目の前のベンチに誰かが座る。

女性だろうか。

日傘を差している。

手にはレースのついた白い手袋

をはめ、いかにも上品に見える。

彼女は誰かを待っている

ようだ。

僕は煙草休憩を終え、

ベンチを立ち上がろうとした。


彼女が倒れた。

周囲には誰もいない。

僕はとっさに駆け寄る。

「大丈夫ですか」

「すいません、目眩が」

「救急車を」

「いえ、ほんとに大丈夫」

「しかし」

「大丈夫ですから」


喫茶店。

「誰かを待っていたんですか?」

「はい、もう3年になります」

「え?」

「交通事故でした」

あの日、私は彼をいつもの公園で

待っていて、いつものように

デートする予定でした。

彼は公園に来る途中、

車に引かれて死んだんです。

「そうですか…」

「私は今でも、あの公園で

彼を待っているんです。

来るはずないとはわかって

いながら」


その日から、僕は彼女と

話すようになった。

僕は煙草を吸いながら、

彼女は日傘を差しながら。

彼女の待ち人が年上の男性

だと分かって、僕はますます

大人ぶるようになった。

一人称も私にしてみたが、

いまいちしっくりこない。

ただでさえ

彼女の方が僕より年上だった。

それがますます僕を焦らせた。


ある日、彼女が公園に来なかった。

僕は気が気でなかった。

彼女の連絡先も住所も知らない。

次の日も、また次の日も彼女は来なかった。

僕は毎日、公園のベンチで

煙草を吸いながら彼女を待った。

3年の月日が経った。


「まだこちらにいらしたんですね」


「ええまあ、僕の日課ですから」

「となりいいですか?」


「どうぞ」


彼女は前よりも痩せているように見えた。

「どうしてたんですか」

「もう忘れようと思って」

「3年も待ったのに?」

「ええ、もういいんです」

「僕はここで、3年間あなた

を待ちました」


「そんな…」


「365日。毎日です」


「今度は、僕をあなたのそばに

いさせてはくれませんか」


彼女はしばらく無言のまま

口を開いた。


「一つだけいいですか」


「はい」


「決して私のそばから

いなくならないと、

誓ってくれますか?」


僕はこうして彼女と一緒になった。

彼女を守り抜くと誓い、

僕の一人称は『私』になった。

第十四話 『月夜のレストラン』

月明かりがさすそのお店は

街の片隅にあって

行き場のない人々を

見守っている。

どんなものだろうと

受け入れ

道ゆく人に

温もりを与える

その店の名はーーー


「そう、ファミレスです」


「これ、犬なんですかね?」

3人は、探し犬の写真を見つめる。

「むしろ、人に近いな」

「そうですね、二足歩行ですね」

「そういえば、

ウサギさんは人なんですか?」

(いまさら!?)

「まあ、こまけえこたあ

いいんだよ!」

「それよりぼうず!」

「おめえはまたなんで

探偵になったんだ?」

「…両親を探すためです」

「そうか、色々事情があるんだな」

「おれあ昔から

探偵もののドラマが

好きなんだ」

「犯人はおまえだ!っていう

あの瞬間が、最高にクールだね」

「そういえば、ウサギさんは

どこの方言なんですか?」

「こまけえこたあいいんだよ!」

「あ、コーヒーきましたよ」

ズズズズ

アチッ!

「猫舌ですか?」

「うるせえ!」


一行はファミレスをあとにし、

聞き込みへ向かう。


「よし、まずは一軒目だ」

ピンポーン

「はいはい、どちらさまですか?」

中から年配のお年寄りの声

が聞こえる。

「月野探偵事務所の者です。

少しお話を伺いたいんですが」

「はいはい、いまでますよ」

ガチャ

ガラガラ

「あの、この写真に載っている
犬を見たことはありませんか?」


中から出てきたお婆さんは

なんだか虚ろな目で、

とても現実が見えている

ようには思えなかった。

(このお婆さん大丈夫か?)

「いえ、知りませんね」

「そうですか、ありがとう

ございます」


「よし、じゃあほかも詳しく

あたるぞ。とりあえず、

二手に分かれよう」

「どっちが光さんに付きます?」

「もちろんおまえやがな」

「そうですか」

「まえまえからおまえは

足手まといやと思おとった

とこや」

「なんてこというんですか!」

「とにかく、おまえはその

坊主に付け」

「…はい」

「じゃ、また後でな」


「もう、私がどれだけ苦労して…」

「大変ですね」

「ほんとです!」

「では、行きましょうか」

「はい!」


一行は、探し犬を見つけるため、

聞き込みを続ける。

第十三話 『犬探しと3人組』

「君の最初の任務だが、

犬を探すことだ」

「犬…ですか?」

「ああ、犬探しだ」

「詳しい事情はあいつに聞け」

彼があごで彼女をさす。

「おはよう、ヒカルくん」

「おはようございます」

「よく眠れた?」

「はい、おかげさまで」

「そう、それはよかった」

美羽さんが

探し犬の写真と

いくつか書類を机の上に広げる。

「探偵初仕事よ」

「がんばってね」

「それで、僕はなにから

始めればいいんでしょう?」

「そうね」


「まずは聞き込みからよ」


玄関を出ると、

白いうさぎと

黒髪ショートボブの女の子が

なにやら言い争って

立っている。


「私、犬探しはもう飽きました!」

「あほかぼけえ!

犬探しも立派な仕事じゃ!」

なんだか話しかけずらい。

「おはようございます。

ご依頼ですか?」

「は?」

うさぎが僕の方をにらむ。

「おまえこそだれじゃ」

「なにいってるんですか!

新人さんですよ!さっき

聞いたじゃないですか」

「はあ?知るかぼけえ!

わしは犬探しを頼まれた

だけじゃ!」

「だから、3人で探すんですよ!」

「あの、もしかして」

「なんじゃ」

「探偵さんですか?」


「あらためまして、

助手のアリスと」

「探偵のウサギじゃ」

「光です。よろしく

お願いします」

「ひょろっちい身体しとるのお!

わしみたいにもっと鍛ええ!

見ろ、この脚力!」

うさぎが短い足をあげている。

どうやら回し蹴りのようだ。

「さて、ではわれわれは

今から聞き込みを始めるわけ

ですが、」

「新人の光さんに

探偵の心得を教えるために、

今日はウサギさんに

付き添いで来ていただき

ます」

「気難しい方ですから、

ちゃんと付いてきて

くださいね?」

「うっさいぼけえ!」

「はう」

たしかに、気難しいそうだ。


「ウサギさん、

今日はやけに機嫌が

悪いですね」

「どうしたんですか?」

「うっさいぼけえ。

わしは腹が減って死にそう

なんじゃ」

「そうですね、

昨日から徹夜続きですもんね」

うさぎが空腹そうに

お腹を押さえている。

「なにかあったんですか?」

「ええ、事件があったんです」

「そうなんですか」

「なんでも、

月の魔物に影を奪われた

とかで」

「月の魔物…」

「ええ、では、犬探しの前に、

腹ごしらえをしたいと思います!」


「いざ、ファミレスへ!」


3人は腹ごしらえのために、

近所のファミレスを目指す。

第十二話 『妹の死体、光射す部屋』

妹は、昔から身体が弱かった。

だから俺はしょっちゅう

妹の側で看病をした。

妹がいじめられていると

聞けば、飛んで駆けつけた。

高校生になったが、

相変わらず身体は弱かった。

中学校は、ほとんど

入院していたような

ものだ。

貧血ばかりでしょっちゅう

倒れたが、本人はもう

それが当たり前になっていた。


家族だけが呼び出された。

「娘さんの身体は、

もう長くは生きられない。

もちろん、

すぐに死ぬわけではない。

成人はするだろう。

だが、20代半ばには、

身体が悲鳴をあげるだろう」

彼女の骨は、もう彼女を支える

ことができないのだ。


骨が常人よりも早く老化する

病気らしい。

どうしてあの子だけが。

おれは神さまに祈った。

どうにか彼女を救うことは

出来ないだろうか。


そんな矢先の出来事だった。

妹が死んだ?

なぜ…

死ぬにはまだ早すぎる。

おれはまだ何もしていないのに。

まだ彼女に何もしてやれて

いないのに。

どうして神さまはこう、

残酷なんだ。

あいつが、

いったい何をしたっていうんだ。


彼女は、誰よりも時間の大切さを

知っていた。

日々弱っていく身体を前に、

彼女は絵を描き続けた。

彼女は絵を描くのが好きだった。

いつか自分の絵で、誰かを感動させたいと彼女は語った。

両親には散々反抗していたが、

それも自分の思い通りにならない

人生のいらいらを、他にぶつける

あてがなかったのだろう。

むしろ、ああでもしなければ、

彼女の精神は保たなかったように

思う。


バン!

自宅のドアを勢いよく開ける。

中には、警察が集まって話を

していた。

「おそかったな」

「うるさい」

猫がおれに話しかける。

今はそれどころではない。


ブルーのシートをめくる。

そこには、干からびた脱け殻の

ような彼女の死体があった。


うわあああああああ


部屋中に響いた声は

遠くの彼方まで響いて

窓からさす月明かりが

彼を慰めるように

輝いていた。

第十一話 『灰色の壁、白い光』

目の前には

大きな壁が

ある。

おれはその壁を

ひたすら力

まかせに殴る

けれど

傷むのは

自分の拳

ばかりで

壁は

いっこうに

消えて

なくならない。

いったい

何の話をして

いるかって?

さあ

おれにも

わからない。

たぶん

何かの比喩なの

だろう。

それにしても、

ここはどこだ?

おれはなぜ

こんな所に

いるんだっけ。

たしか

大事な何かを

待たせていた

ような。


気がつくと

見知らぬ通りに

出る。

目の前には

ふわふわと

白い光が

浮かんでいる。

あれは……

「こんにちは」

こんにちは。

君は…

「あなたは

私の探している

人かしら?」

さあ、

おれに

わかるはずも

ない。

「そうね

あなたの

いうとおりだわ」

ああ。

「もうすこし

ほかをあたって

みるわ」

探し人に

自分の

目的をたずねる

なんて

どうかしてる。


白い光は

ふわふわと

浮かんで

消えた。


カツカツ。

後ろから足音がする。

「誰だ」

「あなたの妹さんが死んだわ」

「なに…」

「正確には、影を抜かれたと

いう方が正しいわね」

薄い色素の金髪に

白いワンピース。

髪が腰まである

その少女は、

凛とした目つきで

こちらを見据えている。

「おまえは誰だと聞いている」

「そんなことは、

たいして問題じゃないのよ」

「月の魔物って知ってる?」

「月の魔物?」


「どうやらあなたも…」


「またどこかで会うでしょう」

「あなたは適合できるといいわね」


「さよなら」


月明かりに照らされた彼女は、

そう言うとその場を立ち去った。

彼はしばらく立ち尽くすと、

妹の安否を確認するため、

自分の家まで走り去った。

第十話 『夜の明けぬ街』

この街の夜は明けることがない。

空には常に太陽がなく、

月明かりが街を照らしている。

街は主に月光を頼りに

生活している。

そのため、この街にあるものは

月の名を関したものが多い。

ただし、

月の探偵団は

月野探偵事務所に所属する

探偵たちの通称であり、

特に月の光に関しているわけ

ではない。


僕は今、美羽さんの部屋で

お茶を飲んでいる。

いったいなぜこんなことに

なっているのか。


「ここが私たちの住む寮、

月野ハイツ。

そして、

ここがあなたの部屋よ」

彼女がドアを開ける。

部屋を一通り見てまわる。

一人暮らしには

広すぎるくらいだ。

僕は4畳半一間で十分なのに。


「じゃあ、お祝いもかねて

お茶にしましょ」

「あ、僕の部屋にはまだ何も…」

「なにいってるの。

私の部屋に決まってるでしょ?」


そんなわけで、僕はいま

彼女の部屋で紅茶を飲んでいる

わけだが。

「カントリーマアムもどうぞ」

「あ、ありがとうございます」

部屋はいくらかピンク調で、

彼女のベッドには大きなくまの

ぬいぐるみが鎮座している。

なんだかすごくこちらを

見ているようで落ち着かない。

壁には世界遺産の載った

カレンダーが掛けられていて、

びっしりと予定が書き込まれている。

大きな赤丸が目にとまる。

「今月誕生日なんですか?」

「そうなの」

「おいくつなんですか?」

「いくつに見える?」

25くらい…?

「22よ」

まだ若い。それにしても

この色気は…メガネのせいか…

「おかわりはいかが?」

「ありがとうございます」


「娘さんなんですか?」

「そうよ。パパの事務所で

働いてるの」

「じゃあ美羽さんも

探偵なんですか?」

「いえ、私は事務方よ。

だから、残念だけどあなたを

手伝うことは出来ないわ」

ほんとうにざんねんだ。

「僕に出来ることが

ありますかね」

「まだ見習いだからね。

最初は小さなことからよ」


「でも、そのうち大きなことが

出来るようになるわ」


「がんばってね」


「期待してる」


美羽さんに大変な励ましを

もらったので、少し元気が

出た。人の温もりは

久しぶりだ。

なんだか、

心があったかくなった。

第九話 『月の探偵団』

自分は失敗作だという

感覚がいつまで経っても

抜けない。

悩むなんて馬鹿らしいし

いつまでもうじうじ

しているのは面倒くさい。

そんな暇あるなら

とりあえず一歩でも

前に進めと、

立ち止まってるだけじゃ

何も見えてこないと

自分に何度も

言い聞かすが、

それでも溢れだす

この恐怖はなんだろう。

失敗するのが恐いんだ。

自分に失望するのが恐いんだ。

誰かに失望されるのが嫌なんだ。

価値のある自分でいたいんだ。

もうひとりはいやなんだ。


ごめん、ぜんぶひとりごとだ。


ところで君はだれだっけ。

なんか、前よりでかくなって

ないか?

気のせいかな。


電信柱に貼ってある

チラシに目が止まる。


“月野探偵事務所

どんなご依頼でも

お受けします。”


探偵か…


気がついたら、彼は

事務所の前にいた。

なんでこんなところに。

依頼?

別に頼みたいことなんて。


“月の魔物”


いや、

そんなこと聞いてどうする。


「あら、ご依頼ですか?」

中から金髪のスレンダーな女性が

出てくる。受付のお姉さんだろうか。

理知的なメガネがよく似合う。

「あ、いや…」

「わかった、就職希望でしょ?」

え?

「ほら、そこのチラシ」


“新人募集”


「はあ、」


「ほらおいで。せんせーお客さん

ですよー」


中に入る。

たくさんの机が並んでいて、

書類が机の上に散乱している。

「こっちよ」

奥に通される。


そこにいたのは、

オールバックに

スーツの似合う

ダンディーな40代の

おじさんだった。


「こんにちは。今日のご依頼は?」

「いえ、ここで働かせて

ください」

「ほう」

「16です。何でもします」

「君の特技は?」

「裁縫は得意です」

「ほかには?」

「特にありませんが…

若さとやる気だけはあります」

「君は、ここに裁縫をしに

来たのか?」

「いえ、違います…

調べたいことがあるんです」

「ほう」

「両親の居場所を…」

「なるほど」

「依頼をするにも、

僕にはお金がないし…」

「わかった。いいだろう」

「それじゃあ…」

「君は今日から見習いだ」

「ありがとうございます」

「ただし、給料はなし。

食事と住む場所はこちらで

保証しよう」


僕は月野探偵事務所で

働くことになった。


「こっちよ」

さっきの金髪のお姉さんに

連れられて、一緒に歩く。

「私の名前は月野美羽。

よろしくね」

月野…え?

「あなたは?」

「光といいます」

「ヒカルくんね」

彼女は、娘さんなのか。


「ここが、私たちの住む寮よ」

それはよくある二階建ての

アパートで、

壁には『月野ハイツ』と

書いてあった。

「ここの管理人は私なの」

「よろしくね、ヒカルくん」


僕の探偵見習い生活が、

幕を開けた。

第八話 『三毛猫の探偵』

賢そうな猫が、

パイプを持ちながら

カツカツと靴音を鳴らし

部屋の中を歩く。

ホームズのような格好が、

ますます彼を知的に見せている。

彼は帽子をくいと上げ

口をひらく。

「害者の死因は? 」

「わかりません」

「わからない?」

近くにいる彼らは月光警察。

この街の治安部隊である。

「どれどれ」

返事がない。ただの屍のようだ。

「これは…」

猫は肉球をあごにあて、

しばし考える。

「夏目さん!」

「吾が輩は猫である。名前はまだない」

「なにいってるんですか!」

彼は夏目ネコ。この街を拠点にする月の探偵団の一員である。

「ちょっとこちらへ」


なにやら、うさぎと女が騒いでいる。


「おまえたち、こんなところでなにをしている」

「うるさい!毎度毎度捕まえおって!我らは探偵だ!ちょっと家の近所で聞き込みしておっただけだろう!」

「はん、免許など持ってないだろう」

「うさぎさんは好きで免許持ってないわけじゃないですよ!」

「それはどうだろう」

「え」

「とにかく、素人が事件に口を出すな」

「うるさい!夏目ネコ!今日こそ貴様を倒す!」

うさぎが耳を立てる。

臨戦態勢に入ったようだ。

「はん、この白うさぎめ」

猫は余裕でひげを撫でる。

「夏目さん!」

「どうした」

「死因がわかりました」

彼らが死体を囲む。

「どうやら、害者は影を抜かれたようです」

「なんだと」

「それって…」

「はい、何者かによって影を奪われたことにより、生命力を失われたと思われます」

「影を抜かれた…」

「月の魔物です」

「なに」

窓の外には

白い光がぽつぽつと

輝いて

まるで雪のようだった

それらはしだいに

集まって

実体をともなうと

そこには

羽の生えた

小さな妖精がいた

第七話 『白いうさぎとアリス』

うさぎがぴょこぴょこ

跳ね回ったかと

思ったら、

急に立ち止まり

話し出した。

「彼女は生前、

絵が好きだったと」

「はい、そのようです。

日記を見る限り、

彼女はそのことを

両親に反対されて

いたみたいです」

黒髪ショートボブの

女の子が

うさぎの問いに

答える。

「なるほど、

ところで

君は犯人の目星は

ついたのか?」

「はい、娘に反抗された

両親の犯行かと」

「そんなわけあるかぼけ!」

「ひぃ」

うさぎが耳を立てる。

臨戦態勢に入ったようだ。

「親っちゅうもんわなあ

どんな子どもでも大切に

育てるもんなんじゃ

それをおまえ、

両親が犯人?

冗談も大概に

しいや!」

「はぅ」

彼らは月の探偵団

探偵のウサギと

助手のアリス。

警察が踏み込むまえの

現場に侵入し

推理することを

趣味としている。


ピーポーピーポー


「やべ、サツのお出ましだ。

逃げろ!」

「はい!」

彼らは窓の外から

勢いよく飛び出した。


「ふぅ

危ない所だったぜ。」

「ほんとですよ、

今まで何度怒られたか

わかりません」

月光警察が現場を

取り調べるなか、

彼らは月のさす

道を歩く。

「それにしても、」

「なんだ」

「そろそろ探偵免許

取ったらどうです?」

「そんなもんいらねえやい」

「助手をする私の身にも

なってくださいよ…」

「お前は黙ってついて

くればいいんだ」

「はぅ」

うさぎが誇らしげに

語ると、夜空に光る

月が彼らを照らし、

彼らの幸運を

祈るようだった。

第六話 『夢見る少女の日記』

夢見る少女じゃいられない

なんて、そんなの

夢をあきらめた

大人の言いわけ

だと思う。

大人はすぐに

そんなの夢物語だ

なんていうけど、

そのくせすぐに

ディズニーランド

に行きたがるんだ。

ほんとは

自分たちだって

夢を見たいくせに

夢と現実をわきまえた

大人の顔をして

えらそうに

語るんだ。

あんたらが

いったい

何を知ってるんだ。

私があんたらから

学んだのは、

現実をわきまえた

大人の顔だけだ。

そんなんで

生きてて楽しい?

私はそんな生き方

絶対やだ。

私は、

自分の大好きな

絵を書き

続けるんだ。

誰にも文句は言わせない。

ほんとなら、

今すぐにだって

こんな家出て行って

やる。

だけど、今は

お金がない。

それが私の現実。

だから、

私はもう少しだけ

両親の小言を

聞き続けなければ

ならない。

そんなの聞いているだけ

でストレスが溜まる。

だから、

私はヘッドホンを

して、さっさと

自分の部屋に

閉じこもる。

そして、

今日も大好きな

絵の世界に

飛び込むのだ。


私はときどき

不思議な声が聞こえる。

それはなんだか

神の声みたいだけど

たぶん自分の脳内の

声が漏れてるんだと

思う。

本当に恥ずかしい。

ときどき

その神の声と

会話を楽しんだり

する。

そうすると

不思議と

アイデアが浮かんで

きて、私は

すっごく楽しく

なる。

だけど

そのあとは

どっと疲れちゃって

すぐに寝ちゃったり

するんだ。

これも

作品を作る代償

なのかなって

思う。

ほら、よく

等価交換とか

いったりするでしょ?

だから私も、

すぐに疲れちゃう

のはしょうがないなって

思う。


さてと。

日記も書いたし、

今日はこの辺で

おわりにするね。

なんだか、

いつもより

疲れちゃった。

おやすみ。


日記はここで終わっている。


そばには

脱け殻のように干からびた

彼女の死体が転がっていた。